タンパク質デザインと細胞内薬物送達

AlphaFold2に代表されるように、近年の機械学習関連分野の発展の恩恵を受けて、タンパク質の構造予測が高精度にできるようになりました。それに伴い、タンパク質の構造や機能を新しく「設計(デザイン)」することも可能になってきています。私は計算機上で設計したタンパク質を細胞内薬物送達に応用することを目指して、主に二つのテーマに挑戦しています。

  1. 膜融合タンパク質の設計

膜融合タンパク質は、エンベロープウイルスが宿主細胞内に侵入して感染を成立させるために不可欠のタンパク質です。膜融合タンパク質は、ウイルスの膜と宿主細胞の膜を物理的に引き寄せ、押し付けるあうことで脂質二重膜同士を融合させ、ウイルスの内包物であるDNAやRNAといった遺伝情報を宿主細胞内に移行させます。このような膜融合タンパク質を人工的に設計することができれば、任意の組織や細胞に対して効率的に、薬物を送達することのできる新たなドラッグデリバリーキャリアをつくることができます。

  1. タンパク質ナノ粒子の設計

キャプシドウイルスは、タンパク質から構成される粒子(キャプシド)の内部にDNAやRNAといった遺伝情報を搭載した、いわばナノマシンです。近年、タンパク質複合体を計算機上で設計する手法を用いることで、タンパク質を立体空間に対称的に整列させて、ナノ粒子をデザインすることが可能になっています。このような手法を使うことで、キャプシドウイルスのような構造・外観をもつ人工ナノ粒子を新たに設計し、このナノ粒子に薬物を搭載すれば、ウイルスベクターのように振る舞うドラッグデリバリーキャリアをつくることができると考えられます。

Reference

  1. Yang EC, Divine R, Miranda MC, Borst AJ, Sheffler W, Zhang JZ, Decarreau J, Saragovi A, Abedi M, Goldbach N, Ahlrichs M, Dobbins C, Hand A, Cheng S, Lamb M, Levine PM, Chan S, Skotheim R, Fallas J, Ueda G, Lubner J, Somiya M, Khmelinskaia A, King NP, Baker D., “Computational design of non-porous, pH-responsive antibody nanoparticles,” bioRxiv, p. 2023.04.17.537263, Apr. 2023, doi: 10.1101/2023.04.17.537263.
曽宮 正晴
曽宮 正晴
准教授

タンパク質デザインを応用した細胞内への薬物送達(特にタンパク質やRNA)や、ナノ粒子と生体システムとの相互作用に興味を持っています。

関連項目